こんにちは。冨樫純です。
「大統領制か議員内閣制か論争の近況」についてのコラムを紹介します。
総理大臣を直接選んでみたいと思っていましたが、理論通りにはいかないようです。
近年、政治学者の間でも大統領制の方が望ましいとする議論が現れている。
この立場に立つ代表的政治学者のシュガートとカレイは、議院内閣制と大統領制を考察するときの2つの基準を提起している。
第1は、効率性である。
効率性とは、選挙民が選択可能な政権の中から一つの政権を選びうる可能性である。
本人である国民が、代理人である政府を選出する際に、いろいろ迷い、なかなか選べないと、これは困ったことになる。
政府の行うべき仕事は停滞する。
どのような制度が効率的に代理人を選べるかがこの基準である。
第2は、代表性である。
議会の中にどの程度多様な声を反映できるかにかかわる。
社会に存在する多様な意見が政治に反映されることは、民主主義の観点から望ましい (Shugart and Carey, 1992)。
彼らは、議院内閣制においては、効率性を追求しようとすれば、小選挙区制のように「勝者がすべて持っていく」しくみを導入することになるという。
小選挙区制では死票は多いけれども、勝者が明確になって安定した政権が生まれやすい。
また、選挙区の規模を大きくすればするほど効率性は高まる。
選挙区が小さいほど、地方的・個別的利益に基づいた議員が生まれる。
彼らは、政権の統一的求心力を作る際に邪魔になるからである。
しかしシュガートらは、ここにトレードオフがあるという。
効率性を追求する結果、社会の多様な利益が政治に代表される可能性が低下する。
代表性が犠牲になるのである。
そこで、代表性を重視しようとして少数政党でも議席を持てる比例代表制を導入すると、多党制システムとなり安定した政権を作るのが難しくなり、効率性が犠牲になる。
日本の中選挙区制度は、少数政党でも議席を持てるシステムであり、また、すでに見たとおり、社会のさまざまな個別利益が政治に反映されるという点で、比例代表制と同様、代表性の高いものであった。
しかし、その結果、日本の政治の効率性が犠牲になっているという認識が生まれたのである。
なぜならば、効率性は大統領を直接選ぶことで維持される。
他方、代表性は議会選挙において実現するというのである。
二人の異なる代理人を持つことで、二つの基準を追求できるという。 彼らがこのような主張をしたのちに導入されたイスラエルの首相公選制は、他方で議会選挙を通して多様な利益を代表しようと比例代表制がとられた結果、議会と首相の間の対立緊張が高まってしまった。
制度改革が現実にもたらす効果の予測はなかなか難しいといえよう。
下記の本を参考にしました
『政治学』補訂版
(NewLiberalArtsSelection)
久米 郁男 他2名
有斐閣