こんにちは。冨樫純です。
「感情予測」についてのコラムを紹介します。
人には心理的回復機能が備わっているという指摘がおもしろかったです。
年末になると宝くじ購入の長い行列を見かける。
「ドリームジャンボ」などの名称がすでにもの語っているように、人々は高額賞金が当たることを夢見る。
大金があれば、つらい仕事をやめてもいい、豪邸を建てても、まだ余る。
お金はどのように使おうか、そのような悩みを味わえたらどんなに幸せだろう、これが並んでいる人々の胸のうちに違いない。
将来の出来事に対して、自分がそのときどう感じるかを現時点で予測することを、感情予測(affective forecasting)という。
快感情を予測するならその出来事への接近に、また不快感情を予測するなら回避に向けて動機づけられるはずであり、動機づけや行動予測に役立つだろう。
しかし、この現象とプロセスの解明に取り組んだウィルソンとギルバート(Wilson & Gilbert, 2003)は、望ましいことであれ望ましくないことであれ、その出来事が起きたときに味わうだろう感情を正しく予測するのは困難で、多くの場合、喜びや苦痛の強度を過大に予測する、あるいは持続期間を長く予測する傾向にあると報告している。
つまり、あることに対して自分自身がどう反応するか正確には言い当てられないことになる。
ある研究では、恋愛関係が順調な人(幸運者)に現在の幸福度と、失恋したときの幸福度(いかに幸福でないか)予測の回答を求めた。
そして、実際に失恋した人にも幸福度を尋ねた。
その結果、失恋経験者の幸福度は幸運者のそれと違いが認められず、幸運者が予測する失恋後の幸福度だけが低かった。
また別の研究では、新入生は大学のいくつかある学生寮のうち、自分が希望するところに入寮できたらどんなに幸せだろう、と予測した。
数ヵ月後、希望どおりの寮に入れた学生と、別の寮にまわされ希望どおりにならなかった学生の幸福度を調べたところ、実際の幸福度はどちらも大差なかった(Wilson &Gilbert, 2005)。
希望寮を決める段階では建築年数や部屋の広さ、通学距離などを考慮するが、実際の寮生活の満足度は気の合う友人が同じ寮にいる否かに大きく影響され、友人ができた学生は建物の古さや部屋の大きさに関係なく、快適で楽しい寮生活を送ることができる。
出来事がもたらす感情を大仰に予測してしまうのはなぜだろうか。
感情予測エラーが生起する原因として、次のようなものが考えられている。
第1に、人には心理的回復機能(これは免疫システム immune system と呼ばれている)があるということを忘れがちである。
人生に多少の困難があってもユーモアや友情、視点の転換などを通して乗り越える力が備わっていることに思いが及ばない。
第2に、当該出来事の中心的側面に焦点を当てて考えすぎること(focalism)である。
人生全体、そのなかのある1日、どちらをとってもさまざまなことが起きる。
失恋したとき、親友が旅行に連れ出して素晴らしい景色を見せてくれたり、難関試験の合格の通知がちょうど届いたりするかもしれない。
失恋だけでなく、それらも幸福感に影響するはずであるが、あらかじめ失恋について考えるときにはそのことだけに集中し、他の出来事からの影響に思いが及びにくい。
下記の本を参考にしました
『心理学』新版
無藤 隆 他2名