とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

脳損傷の影響

こんにちは。冨樫純です。


「芸術的才能に及ぼす脳損傷の影響(画家の場合)」についてのコラムを紹介します。


障害者が芸術的才能を発揮することは、よく耳にしますが、それと関係があるのかと思いました。


芸術的才能は、特定の人物だけが持つ特異な高次機能に相当するが、そうした高次機能が、脳損傷によってどのような影響を受けるかを知る手がかりとなる事例が、何例か報告されている(Zaidel, 2005; 河内, 2008, 2011)。


脳に損傷が生じた画家は、発症後も強い創作意欲を保持していることが多い。


利き手に麻車が生じることもあるが、逆の手で描くことを学習した後は精力的に創作している例が多い。


描く技能自体は保たれていることが多いが、絵のスタイルが変化する場合がある。


発症前は写実的な風景画を好んで描いていた画家が、発症後は幻想的な内容の絵を描き、高く評価された例もある。


逆に、発症前は詩的な表現が評価されていた画家が、発症後は具体的で写実的な表現へと変化した例もある。


描き方自体が変化する場合もあり、発症前は肖像画を連続した太い線で力強く描いていたのが、発症後は細い切れ切れの線で描くようになった例が報告されている。


左半球損傷では失語症が起こることが多いが、重度の失語症でも絵画の創作能力は保たれていることが多く、ほとんど話せない自分と、衰えを示さない創作能力を示す自分との対比に、患者自身が驚嘆を示した例もある。


こうした事実は、言語機能の脳内基盤と絵画創作機能の脳内基盤が相互に独立していることを示す。


右半球損傷で左半側空間無視が生じた場合は、その影響が作品に明瞭に表れ、左側が欠如した作品を描き、回復につれて左側の描かれる部分が多くなっていく。


かなり回復した段階での自画像などでは、左側が描かれていても顔の輪郭の左側に歪みが見られることがあるが、それはデッサンや素描に限られる。


これは、水彩画や油絵では、描く時間が長いので、 知覚の歪みを補正することができるためと解釈されている。

 

特異な例としては、回復過程に描かれた花の絵で、花瓶も花も輪郭は左側が完全に描かれているのに、色は右側だけ塗られて左側が塗られていない作品がある。


これは、ものの空間と色の空間とが、 脳内では互いに異なる機構によって処理されているため、と見ることができる。


以上述べてきたように、脳の損傷が画家の創作活動に与える影響はさまざまであるが、発症後も描く技能が保たれている例が多い。


この事実は、先天的に付与されていた固有の技能が発症前の創作活動によって強化され、脳内の広範な領域に及ぶネットワークの中に強く表現されているため、脳の損傷の影響を受けにくくなっていることによると解釈できるだろう。


下記の本を参考にしました


『心理学』第5版補訂版 

 鹿取 廣人 他2名

 東京大学出版会