こんにちは。冨樫純です。
「ソクラテスの妻は本当に悪妻だった?」についてのコラムを紹介します。
当時の哲学者にとって家庭や家族は二の次だと考えると、ソクラテスの言動は当然だと思います。
現代の感覚からすると、哲学者みたいな人は家庭をもってはいけないと思いますが。
ソクラテスの友人が言ったそうです。
「あなたの奥さんが、あなたをガミガミ怒鳴る声には、まったく閉口しますなぁ」
するとソクラテスが言い直しました。
僕はすっかり慣れっこになっているからね。
滑車がガラガラ鳴り続けていると思えばいいのさ。
君だって飼っている驚鳥がガアガア鳴いているのを我慢しているじゃないか」
彼の友人が反論します。
「でもね、驚鳥は私に卵やひよこを生んでくれますからね」
ソクラテスが切り返します。
「僕の妻のクサンティッペは子どもを生んでくれるよ」
ソクラテスの妻クサンティッペは、悪妻として有名でした。多くのエピソードが残っています。
作家の佐藤愛子に「ソクラテスの妻」という題名の作品があり、1963年の芥川賞候補作となりました。
この作品でソクラテスと呼ばれる男は、主人公「わたし」の夫です。
定時制高校で週に3日、社会科を教えていますが、本業は質屋です。しかし、質屋の仕事はまったくせず、売れない小説書きと花札バクチに明け暮れています。
もっと許せないのは、同人誌の仲間に戻るあてのないお金を貸していることです。
ときどき、役に立たないけれど立派なことを述べたりします。そして結局、質屋をつぶしてしまいます。
小説の大半は夫「ソクラテス」に対する「わたし」の怒りと愚痴で構成されています。
本物のソクラテスは、朝からアテナイの街に出かけては人々に答を仕掛け、彼らに「不知の自覚」を促し、夕暮れになると帰宅する毎日です。
その行為で生活の糧を得ているようではありません。哲学者の行動としては、価値あるものであったのかもしれませんが、いつも家を守るクサンティッペにとっては、腹が立つこともあったことでしょう。
ところが、伝承されている夫婦ゲンカのエピソードは、明るい話ばかりなのです。街の人たちが口論している2人に対し、それぞれどちらかを応援している場面もあったりします。
クサンティッぺは悪妻だったけれど、彼女なりのやり方でソクラテスを愛していたのではないか?そう思います。
その日もクサンティッペは、なんやかんやとソクラテスに小言を言っていました。けれども、ソクラテスがのらりくらりと言い逃れるので、ついに怒り出した彼女は手桶いっぱいの水を、彼の頭にぶっかけました。
それを見てびっくりしている人々に、ソクラテスはニヤリとしながら言ったそうです。
「ほうら、言っていたとおりだろう?クサンティッペがゴロゴロ鳴り出したら、雨が降り出すぞって」
下記の本を参考にしました
『哲学と宗教全史』
出口 治明著