こんにちは。冨樫純です。
倫理学に興味があり、それに関連する本を読んでいます。
そこから、個人的におもしろいと感じたところを引用し、感想を書きたいと思います。
タイトル
公平性と「道徳的に重要な違い」
公平性を重んじる功利主義の本当の意義を理解するには、「道徳的に重要な違い」という考えを知っておく必要がある。
まず、次の問いを考えてみてほしい。
双子の一郎と次郎のケース: あなたの息子の一郎と次郎は双子で、二人は中学生だ。
ある日、一郎が学校から帰ってきて、テストでよい成績を取ってきたと言うので、あなたは褒美に小遣いをあげたとする。すると、遅れて次郎も帰ってきて、テストで一郎と同じ成績を取ってきたと言う。そこで、あなたはどうすべきか。
当然、あなたは次郎にも一郎と同じだけの小遣いをあげるべきだろう。一郎は小遣いをもらい、次郎は小遣いをもらえないとなると、次郎は不公平だ差別だ児童虐待だと怒るだろう。
これはつまり、二人の間には「道徳的に重要な違い」がないから、二人を同じように扱うべきなのだ。
では、次郎が先日、学校のトイレでたばこを吸っていて保護者のあなたが呼び出されたとか、前回のテストでは一郎と違って赤点を取ってやはりあなたが呼び出されたとか、そういう事情があるとどうだろうか。
その場合には、次郎に今回は小遣いをやらないことが不公平ではなくなるかもしれない。
二人の間にこうした「道徳的に重要な違い」があるのなら、二人を異なる仕方で扱うことが許されるだろう。
つまり、「道徳的に重要な違い」とは、その違いがあれば異なる仕方で扱うことが許され、その違いがなければ等しく扱うことが要求されるような違いのことだ。
何が「道徳的に重要な違い」であるのかという問いは、公平性を重んじる功利主義にとって、常に重要な問いであり続けてきた。
歴史を振り返ると、功利主義は当時の人々が「道徳的に重要な違い」だと考えてきたものに常に挑戦状を突きつけ、論争を巻き起こしてきたと言える。
たとえばベンサムは、同性愛行為が犯罪とされていた時代にあって、異性愛と同性愛に道徳的に重要な違いを認めず、異性愛が合法なら同性愛も合法であるべきだと考えていた。
また、動物の虐待が普通であった時代に、動物は大人の人間ほど理性的でないにしても人間と同様に苦痛を感じるという点で道徳的に重要な違いはなく、人間の虐待を禁じるなら動物の虐待も禁じるべきだと考えていた。
ミルも同様だ。彼は男性と女性との間には道徳
的に重要な違いはないと考え、女性の参政権を主張すると笑い物になるような時代に、男性だけでなく女性にも参政権を認めるべきだとはっきりと主張した。
この姿勢は現代でも変わらない。たとえばピーター・シンガーは、貧しい国の人々を助ける義務について論じている。
今日の多くの人々は、家族や友人や、自国民を助ける義務は認めても、遠い国で飢えている人々を助ける義務はないと考えているだろう。
つまり、身近な人と、そうでない人との間には、道徳的に重要な違いがあると考えている。
だが、シンガーは、そこには道徳的に重要な違いはないと主張する。すなわち、シンガーは、わ
れわれが自分の身の回りの人々を助ける義務を認めるなら、遠い国々で今にも飢餓や病気で死にかけている人々を助ける義務も認めなければおかしいと言うのだ。
また、彼は、動物の幸福について、ベンサムの主張をより大胆かつ実践的に論じている。
彼は工場畜産や動物実験の禁止を唱え、われわれにベジタリアン(菜食主義者)になるよう要求する。
人間を同意なく医学実験に使ったり、食べたりすることはないのに、動物に対してはそうしてよいと言えるには、人間と動物の間に道徳的に重要な違いがなければならないが、動物も人間と同様に苦しむのだから、このような違いは認められない、と彼は主張する。
人間の利益だけを重視して、同じように苦痛を感じる動物を無視するのは「種差別」であり、これは過去に問題になった(また今日でも問題になっている)「人種差別」や「男女差別」と同じだというのだ。
貧しい国々の人の援助義務も、動物の福祉の問題も、シンガーの考え方は共通している。
ゴドウィン流に言えば、われわれは身近な者に対する義務にばかり目がいって、公平な視点から物事を見ることを忘れているということだ。
「最大多数の最大幸福」と言うとき、「最大多数」には誰が入るのか。公平性を重視する功利主義は、われわれの視野を広げることを要求する。
われわれが「ここまでは道徳的な考慮に入れて、これ以外はそうしなくていいだろう」と何となく線引きしている事柄について、その線引きは本当に道徳的に重要な違いに基づいているのか、その線引きによって一部の人(や動物)の幸福や不幸を無視することにならないのか、とシンガーは問うのだ。
感想
ピーター・シンガーは動物倫理で有名な人だと思っていたので、意外な感じがしました。
下記の本を參考にしました
『功利主義入門』
児玉聡