とがブログ

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名誉の侵害を暴力で解決する文化

こんにちは。冨樫純です。

 


「名誉と攻撃性の関係」についてのコラムを紹介します。

 

 

 

名誉の侵害を暴力で解決する文化もあることに驚きました。

 


現代では考えられないですが。

 


アメリカでは、自由国家を守るためという理由で武器を所有することが国民の権利として憲法によって認められている。

 


また、NRA(全米ライフル協会)は俳優チャールトン・ヘストンを会長とし、豊富な資金を背景に強力な政治力をもっている。

 


全米で2億丁の銃が出まわり、犯罪による死亡者の70%は銃によって殺されているという現実があっても、銃規制はなかなか進まない。

 


アメリカのなかでも南部と北部では攻撃性に関して違いが見られ、南部の方が殺人事件が多く、より攻撃的である。

 


たとえば、19世紀後半から20世紀初めにかけて、南部のある地域の殺人率は、今日のアメリカ全体のそれの10倍以上にのぼった。

 


また、子どもへの折檻やスポーツ・ゲームなども、それ以外の地域の人間からすると怖くなるほどの激しい暴力性を特徴とした。

 


なぜ南部はより攻撃的傾向が強いのか。

 


これに対する説明として、これまで、高い気温、奴隷制や貧困などが挙げられてきたなか、ニスベット(Nisbett.1993)は建国以来の歴史と関係する集団経済システムにルーツがあるのではないかと考えた。

 


世界的に見ても、羊や牛などの家畜放牧を主要産業としている地域では、自分の資産つまり放牧している家畜を厳重に管理することが難しいために、家畜が盗まれないように、自分は「タフ」だというイメージを与えて防衛する。

 


つまり自己防衛が重要となるシステムにおいては、敵に対してそのような行動をしたらどうなっても知らないぞということをすみやかに知らしめる必要があるため、個人的名誉に対する侵害懸念および屈辱に対して暴力で応えることを適切とする名誉の文化(Culture of honor)が発達したと考えられる。

 


このような名誉文化を背景として、アメリカ南部やその他の国々では、法制度はそれをさらに強化する方向で作られていったのではないか。

 


ニスベットが挙げる例によれば、植民地時代のルイジアナ州では、1970年代くらいまで、妻が姦通した場合には妻とその相手の2人を殺す権利を夫に対して合法的に認めていた。

 


今日でも、南部は懲戒や懲罰のための銃・暴力使用に対して寛容である(Nisbett & Cohen, 1996)。

 


南部の人は自分の家や家族を守るためには人を殺すことも正当化されると考えていた。

 


また、大学生を対象とした実験では、相手(サクラ)に侮辱された場合、南部出身者は生理的指標でも認知や行動の指標でも、強い攻撃性を示しやすいことが明らかにされた(Cohen et al, 1996)。

 


同時多発テロ事件の際、当時のアメリカ大統領がテロ指導者と見なした人物を「殺してでも生かしてでもいいから捕まえろ」と言い、徹底報復を指示したが、南部出身者ゆえの発言だと解釈するのは穿ちすぎだろうか。

 


名誉の文化の研究は、男であることが競争に打ち勝つことや強さで定義される文化においては、攻撃性が男性のアイデンティティと力強さの証明となることを示唆している。

 


男性アイデンティティは、女性アイデンティティよりもある意味脆弱で不確実であるため、絶えず“男らしい”ことを示し続けようとするのかもしれない(Bosson & Vandello, 2011)。

 


ピンカー(Pinker, 2011)によれば、暴力は少なくとも民主主義が発達しているところでは徐々に減少しているという。

 


政府が正義を管理し適正な罰を執行するなら、個々人による復讐や拷問などがなくなる。

 


15世紀のイングランドでは10万人あたり約24人だった殺人率が 1960年には 0.6 に低下した。

 


名誉の文化を抱く男たちは、政府を信用せず個人的に暴力的に報復しなければならないと考える傾向がある。

 


また名誉の文化においては、妻が不貞や家出など

で男の名誉を脅かした場合には、妻は夫から暴行を加えられてもしかたないと男女とも信じている(Vandello & Cohen, 2008)。

 


つまり、女たちは暴力の被害者になりやすいが、他方「弱いいくじのない男」を嫌うことによって、そのような文化に積極的に関わっていることになる。

 


下記の本を参考にしました

 


『心理学』新版

   無藤 隆 他2名

   有斐閣