こんにちは。冨樫純です。
「攻撃性と進化論的視点」についてのコラムを紹介します。
距離的に犠牲者が遠くてその表情や息づかいや泣き声を把握しにくいとき、攻撃を加えることへの抵抗が減少するという心理に、ものすごい説得力を感じました。
これまでの記録が物語るように、人類は殺し合いを、しかもときには大量殺戮を重ねてきた。
この事実は、攻撃性が適応とは矛盾するものであることを示しているように見える。
ここでは攻撃性をめぐる進化論的見解を2つ紹介しよう。
その第1は、動物行動学のローレンツ(Lorenz, K. Z.)らが提唱する見解である。
彼らによれば,動物で同種の個体間では対立する当事者双方に抑制メカニズムが働き、同種個体同士で死に至るような抗争は少なく限られている。
抗争があっても一方が優位に立つと劣勢に立つ側が敗者シグナルを送る。
すると、勝者はそれを受け入れ、攻撃を止める。
したがって、抗争中に偶発的事故で落命が生じることはあるが、抗争の末に死ぬ数は抗争数に比べてきわめて少数である。
そして、そうした抗争は最小限の犠牲で強いリーダーを選出することを促進し、適応に役立っていると考える。
人間にも殺傷抑制メカニズムが備わっている。自分の手で人を殺すことは一般人はもちろん、兵士でさえも大きな心理的抵抗を感じるのが普通であり、生来の殺人者はほとんどいない。
ではなぜ、大量殺戮が行われてきたか。
アイヒマン実験で示されたように、距離的に犠牲者が遠くてその表情や息づかいや泣き声を把握しにくいとき、攻撃を加えることへの抵抗が減少する。
ミサイルを用いれば数千km 隔てた所からでも、ボタンを押すと同時に殺戮が完了する。
第2の社会生物学からの見解も、攻撃性が長期的適応をもたらしていたと考える。
生物は自分の遺伝子を未来へ届けるように動機づけられている(Dawkins, 1976)。
ところが生殖機会に関して性差があり、メスは生涯においてもてる子どもの数が限られているのに対して、オスは理論上は多くの子どもをもつことができる。
ただし、そのためには遺伝子伝達をめぐって競争的な関係にある他のオスを倒す必要がある。
攻撃性における性差、つまりオスの方がメスより攻撃的だとされているのは、生殖機会の性差を反映している(Archer, 2009)。
しかし、戦争では遺伝子よりも政治的同盟に基づいて敵味方が分かれ、また黒人白人はそれぞれの人種内殺人が人種間殺人よりもはるかに多いこと、また社会的役割や置かれている状況などにおける性差などの点から、攻撃性について進化的観点だけから説明することに対して反論も出されている。
下記の本を参考にしました
『心理学』新版
無藤 隆 他2名