とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

視覚の適応能力

こんにちは。冨樫純です。

 


「逆さまの世界」についてのコラムを紹介します。

 


人間の適応能力の偉大さを知りました。

 


視覚による能力なので、個人差はないと思います。

 


17世紀のはじめにドイツの天文学者ケプラー が1つの素朴な疑問を提出した。

 


それは、網膜像は倒立(上下左右逆転)しているのに、なぜ外界は倒立して見えないのか、という疑問である。

 


この疑問に答えるために、ストラットンは、逆転眼鏡の実験を行った。

 


すなわち彼は、上下左右が逆転する眼鏡(言い換えれば通常の状態とは逆さまの網膜像が得られる眼鏡)を長時間かけたまま、最初は3日間(計21.5時間)、約5ヵ月後には8日間 (計87時間)、屋内や庭で日常の生活を試みた。

 


その結果、この奇妙な逆さまの世界では、通常の視覚的体験とは異なった多くの歪みや混乱が生じることがわかった。

 


ストラットンは、その逆さまの世界の知覚体験を、「歪みや事物の視覚像はあくまで明瞭であるが、現実味に乏しく、幻影を見ているように感じられる」と報告している。

 


ところが不思議なことに、人間の視覚系は、この逆さまの世界にもしだいに適応することができるのである。

 


ストラットンの報告によると、逆さまの視覚世界での行動は、当初は現前の視覚を意図的に無視しない限り、不適切なものであった。

 


しかし、しだいに視覚に基づく行動ができるようになり、本実験の4日目には格別の努力はしなくても視覚対象の方に(正しく)手がいくようになり、8日目には視覚と運動の協応は、まったく問題なくできるようになった。

 


しかも、逆さまの世界に体が適応しただけではなく、知覚世界にも変化が現れたのである。

 


1日目は視野が倒立して、しばしば動揺し、事物が孤立した異様な感じであったが、3日目には視野の静止安定性と対象の位置の恒常性が回復した。

 


そして、最後の8日目には、事物の正立視が回復した。

 


ストラットンは、そのときの様子を次のように報告している。「私の体の新しい定位が生き生き

としている限り、全般的な体験は調和がとれており、すべてのものが正立していた」

 


このように、ストラットンの逆転眼鏡の実験もまた、人間の視知覚は網膜像に基づいて知覚対象についての解釈や推論を行う「心の働き」であるこ

とをきわめて雄弁に物語っている。

 


下記の本を参考にしました

 


『心理学』新版

   無藤 隆 他2名

   有斐閣