とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

自己実現が優先される若者の心理

こんにちは。冨樫純です。

 


独学で、社会学を学んでいます。

 


そこから、個人的に関心のある話題を取り上げて、紹介したいと思います。

 


感想も書きたいと思います。

 


話題  

 


不安定就労のもとでも、自己実現が優先される若者の心理

 


正規社員の長時間労働以外にも、今の若者が不安定な就労状況にもかかわらず、自分の好きな仕事で「やりがい」を求めすぎることが彼らを袋小路に追い込んでいる面もあります。

 


若手社会学者の阿部真大は、大学を休学して一年間バイク便ライダーを経験し、そのときの体験をもとに『搾取される若者たち』(集英社新書)を書いています。

 


バイク便とは、書類などの荷物をバイクのシートにくくりつけて企業間で運ぶ仕事です。

 


彼らは、自慢の愛車を駆って渋滞した道路を高度なテクニックですり抜け、誰よりも早く荷物を目的地に届ける。

 


バイク好きにはたまらない仕事です。

 


ここには「仕事の趣味化」がある、と阿部はいいます。

 


しかし、多くのバイク便ライダーの従業上の地位は、請負契約のもとで働く自営業者です。

 


彼らはまず最低賃金が保証されない出来高払いの歩合制で働くので、収入が不安定です。

 


体を壊して仕事ができないと無収入になります。

 


またバイク便の仕事は事故の危険と隣り合わせですが、請負契約であるためケガをしても労災保険がおりません。

 


事故も自己責任というわけです。

 


阿部によると、初心者はまず賃金の保証された「時給ライダー」から仕事を始めますが、やがてミリオンライダー(月収100万円以上のバイク便ライダー)に憧れ「歩合ライダー」になろうとします。

 


「時給ライダー」には「仕事は仕事、趣味は趣味」と割り切っている者が多く、「仕事を趣味化」して楽しむ余裕があります。

 


ところが、「歩合ライダー」になると「仕事による趣味の更新」が生じると阿部はいいます。

 


「仕事による趣味の更新」とは、誰よりも速く走るというバイクの機能性と、ぎりぎりの法律の範囲内で走るという合法性を両立させる「かっこよさ」を求める結果、仕事への「真摯さ」つまり

「仕事に気合が入っている」ことが趣味にフィードバックされて、本来の趣味の世界が塗り替えられていくことを意味します。

 


こうして「時給ライダー」から「歩合ライダー」へと「進化」する過程で、彼らは好きな仕事に「気合が入っている」ことと引き換えに、より不安定な請負契約の仕事を自ら選んでいくことになるのです。

 


そして、休日出勤も厭わぬ「自己実現ワーカホリック(仕事中毒)」が誕生するのです。

 


「仕事による趣味の更新」が仕事を中毒性のあるものにするのは、それによって、労働者の純然たる「趣味」の領域が奪われるためである。

 


「趣味」の領域が残っていれば、仕事は、それほど中毒的なものにはならないだろう。…(中略)…

 


そのような「趣味」の領域は、しかし、「仕事による趣味の更新」によって失われる。

 


彼らは、「趣味」の喪失によってできた心の空白を埋めるかのように、趣味=仕事に没入していく。

(中略)…それは、あくまで労働の論理によって書き換えられた趣味である。 (中略)…その向かう先

には、死が口を開けて待っている。

 


こうして、阿部もまた、現代の若者は、「やりたいこと」を仕事にできないニートと、「やりたいこと」を仕事にした結果、燃え尽きていく「自己実現ワーカホリック」に2極化しているといいます。

 


かつてベストセラーになった村上龍とはまのゆかの『13歳のハローワーク』(幻冬舎)の帯には「好きで好きでしょうがないことを職業として考えてみませんか?」とありましたが、これも場合によっては労働の世界を知らない若者には危険な罠です。

 


イギリスの社会学者Z・バウマンはこういいます。

 


今の自分の職業に愛着を感じ、その職業が自分に要求するものに惚れ込んでしまい、世界における自分の居場所を、遂行される労働や身についた技能と同一化することは、自らすすんで面倒にまき込まれることを意味する。

 


(中略)…選ばれた少数者以外の大多数の人々にとって、今日のフレキシブルな労働市場において自分の労働を天職として受け入れることは、大きなリスクを背負うことであり、心理的、感情的な破滅の原因でもある。

 


感想

 


「仕事による趣味の更新」が仕事を中毒性のあるものにするという指摘がおもしろいと思いました。

 


下記の本を参考にしました

 


『ライフイベントの社会学

   片瀬 一男著

 世界思想社