とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

1人で子を育てるとは

こんにちは。冨樫純です。


ある質問や疑問に答える形式で、解決の参考になりそうなことを書いていきます。


法律的なものです。


質問の内容は、主に女性目線からものです。


質問


彼とは別れたけど、1人で子どもは産んで育てていこうかなって思っています。


これって無理かな?


解答


1人の女性が一生の間に産む子どもの数が減っています。


原因はいろいろ考えられますが、日本社会における子どもの産みにくさも指摘されています。


日本は妊娠、出産する女性が働きやすい社会だとか、子育てをしやすい社会だといった評判は聞

いたことがありません。


むしろ、子どもを産んだ女性を、なんとか追い出そうという会社もめずらしくはありません。


育児は女性だけがやらされるし、子どもの教育費は高いし、住宅は狭い…。


これでは女性が子どもを産むのをためらっても不思議ではありません。


こうした社会も、法律上の結婚をしているカップルから生まれた子どもには、それなりに温かく対応してくれます。


法律婚の子どもは、法律上、正しい生まれの子ども (嫡出子) として位置づけられているからです。


事実婚カップルから生まれた子どもは、出生届の差別や相続分の差別など法律上の差別 (後述) や社会的差別はありますが、生活上の困難は法律婚と比べてとくにありません。


また、事実婚カップルは、実質的には一夫一妻の婚姻秩序の枠内にいるわけですから、社会的な非難を受けるわけではありません。


女性が1人で子どもを産み育てるという選択はとてもしにくい状況です。


周りの人たちは中絶をすすめることが多いでしょう。もちろん中絶も1つの選択です。


けれども、出産も選べるのでなければ、ほんとうに自由に中絶を選択したとはいえません。


子どもを産む、子どもと2人の家族をつくるというあなたの決定は、尊重されなくてはなりません(憲法13条)。


非婚の母から生まれてくる子どもは婚姻外非嫡出子という差別の子ですから、民法上、 非嫡出子ということになります。


姓はあなたの姓を名乗ります (同 790 条2項)。


あなたがそれまで両親の戸籍にいたのなら、新しくあなたと子どもの戸籍がつくられます。


親権者はあなたです (同 819 条4項)。


婚外子は、これまで戸籍の父母との統柄の記載が「男」「女」 でした。


婚内子は「長男」「二男」「長女」 「二女」などと記載されているので、一目で婚外子であることがわかるようになっていました。


婚外子差別に対する批判が強まり、戸籍と連動して作成される住民票の世帯主との続柄記載については、1995年3月から、婚内子も婚外子も「子」に統一されました。


戸籍の差別記載についても、2004年11月1日から、母との続柄を基準として「長男」「長女」などと記載されることになりました。


しかし、すでに戸籍に記載されている子については、個別に申し出なければ、従来のままです。


出生届書には、婚内子·婚外子の別を記載しなければなりません(戸籍法 49条2項1号)。


また、婚外子の相続分は婚内子の2分の1です (民法 900 条4号但)


将来もしあなたが子どもの父親とは違う男性と結婚して、もう1人子どもを産むと、その子どもは婚内子です。


あなたが死んだときの相続権が、先の子どもには後の子どもの半分しかありません。


同じようにあなたが産んだ子どもなのに、そのときあなたが結婚していたか否かでなぜ差別されるのでしょうか?


最高裁判所は、相続分差別について、法律婚の尊重と婚外子の保護の調整をはかるためのものであって、憲法違反の差別ではないとしています(最高裁 1995·7.5決定)。


しかし、自分が婚外子として生まれたことについて何の責任もない子どもに不利益を負わせるのは、近代法の基本原則に反しています。


1996年の民法改正要綱は相続分差別の廃止を提案しています。


子どもに生物学上の父親がいることはあたりまえですが、法律婚をしていない場合は法律上の父子関係は、認知がなければ発生しません (民法 779条)。


認知がなければ、法律上は親子ではないのです。


たとえば、父親としての扶養の義務はありませんし、子どもは父親の財産を相続することもできません。


認知には、父親が認知届を出して行う任意認知(民法 781 条1項)、任意認知がない場合に子どもから父親に対して行う強制認知(認知の訴え、同 787条) があります。


父親である男性は、あなたが妊娠中であっても、胎内の子どもを認知することができます。


でも、その場合には、おなかの中の子どもを勝手に認知されては迷惑です(同783条1項)。


しかし、子どもが生まれた後は、たとえあなたは望まなくても、父親である男性は認知することができます。


子どもにとって、法律上の父親が存在することは利益になると考えられるからです。


ただし、子どもが成人したら、子どもの承諾がなければ認知はできません(民法782条)。


子どもが幼い間は放っておいて、自分が年をとったからといって成人した子どもに生活の面倒をみてもらおうというような父親の勝手を許さないためです。


任意認知がないときに法律上の父子関係を発生させたいと考えれば、認知請求の裁判を起こすことになります。


父親である男性が死亡して3年たったら、訴えを起こすことはできません(民法787 条)。


認知の効果は、子どもが生まれたときまで遡ります (民法784条本文)。父親は子どもが生まれたときから扶養義務を負っていたことになります。


母親との話合いで父親が親権者になることもできるようになります。ただし、婚内子のように父母が2人とも親権者になることはできません (同819条4項)。


家庭裁判所の許可を得て、父親の姓を名乗ることもできるようになります(民法 91 条1項)。


父親の姓を名乗ると、戸籍も父親と一緒になります。 父親が死亡した場合は婚外子として相続よできます。


現在の日本で1人親家族が子どもを育てていくのはとても大変です。 社会のしくみが基本的に、家族を養う賃金を稼ぐ男性と、無償で家事育児を担当する女性がペアで子育てをするという前提でできているからです。


だから父子家庭もとっても大変なのですが、母子家庭の場合は、とくに経済的に大変です。


母子家庭の生活を支えてきたのが、児童扶養手当制度です。


法律婚だけでなく事実婚も含め、両親が離婚したり父親が死亡したりした場合や、非婚で子どもを産んだ場合を対象とする制度です。


かつては、非婚で産んだ子どもの場合、父親が認知すると支給が打ち切られることになっていました (I旧児童扶養手当法施行令1条の2第3号)。


そして、その後1年以上父親から仕送りがまったくない場合にはじめて支給が再開されました。


しかし、認知があったからといって、父親からの仕送りの期待はそうできません。また、両親が離婚した家庭の場合には、父親が扶養料を払っていても児童扶養手当が受けられることと比較しても、非婚から生まれた子どもを差別して、支給を打ち切る理由はありません。


1998年に厚生省(当時) は差別を廃止しました。


「結婚外の子どもの権利を認めると、きちんと結婚している人の家庭を壊すことになる」という言い訳が、婚外子差別を正当化してきました。


1人親家庭の生活を支えるために、2010年8月から、児童扶養手当は父子家庭にも支給されることになりました。


下記の本を参考にしました


『ライフステージと法 』

  副田 隆重 他2名

  有斐閣アルマ