とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

虐待とは

こんにちは。冨樫純です。


ある質問や疑問に答える形式で、解決の参考になりそうなことを書いていきます。


法律的なものです。


質問の内容は、主に女性目線からものです。


質問


友人が「中学生の妹が、父に性的ないたずらをされて……」 と辛い悩みを打ち明けてきました。


相談された私も、あまりのことにどうしてよいのかわかりません。


彼女の妹さんを救うにはどうすればよいのでしょう。


解答


子どもの虐待の実態がなかなか明らかにされない背景には、次のような事情があります。


1つは、家庭という閉ざされた生活空間のできごとであるため、虐待や放置の事実を外部から発見することがむずかしいのです。


2つには、法制度上のさまざまな不備が指摘されています。 欧米諸国では、子どもの虐待を発見しそうな人すべてに罰則つきの通報義務を課し、善意で間違った情報を伝えた人に対し責任を免除するなど、通報を奨励する制度をおいています。


しかし日本では、児童福祉法25条の通告制度が十分でなく、あまり有効に機能していないという点がありました。


また、現在の親権の考え方は、親本位の古い構造をもち、子ども中心の権利システムとして徹底していません。


3つめに、子どもの虐待を発見する可能性の高い医師、保健師、学校関係者、警察官などの関係者の認識や協力体制がいまだ不十分で、適切な対応のしかたを知らない点も問題でしょう。


これらの問題に対応するため、児童虐待防止法が 2000年11月より施行されました。そのため、現在では早期発見通告制度、職員等の立入調査権、 被害児や虐待親のケアなど、ある程度の法制備が

されています。


性的虐待を受けた子どもたちは、異性との健全な関係を築けず、恐怖心から良好な人間関係を維持することもむずかしくなることさえあります。


子ども時代に虐待をされた人は、おとなになって同じように自分の子どもに対する虐待の加害者にまわることが多いといわれています(虐待の世代的連鎖)。実に悲しいことです。


民法では、親に、親権を濫用したり子どもの福祉を著しく害するような不適切な事情があるときには、家庭裁判所は親権の喪失を宣告することがで

きるとされています (同 834条)。


しかし、実際に親権喪失の宣告が請求され認められたケースはきわめて少ないのが実情です。


日本でもようやく1994年に、子どもの権利条約が発効しました。 しかし、世間では「子どもは親の従属物」 「子どもは親の所有物」 という旧態依然とした意識が強く、民法でも古い支配権的法構造をそのままに残しています。


その結果、親権喪失の制度は、子どもの利益や福

祉を実現するためのシステムとして有効に機能していません。


仮に、児童福祉施設で子どもを保護していても、親権者である親の同意で入所した場合(児童福祉法27条4項) はもちろん、家庭裁判所の承認により、同意によらず「措置入所」 した場合でさえ(同 28条)、親の親権は制限されないと解されているのです。


そのため、子どもを虐待する親に対抗するには、児童相談所長の申立てによる親権喪失宣告(同33条の7)という方法しかありません。


たとえば、離婚後の父子家庭で、父親が中学生の娘に暴力で性交を強要し、娘は家出して児童相談所で一時保護されたところ、父親が強引に引取りを要求するので、児童相談所長から親権の喪失を求めたというケースがありました。


この事件では、被害者が中学生であったのである程度の判断力をもって中学校の先生に助けを求めることができ、客観的証拠もそろったため、父親の親権の劉奪が認められたのです(東京家裁八王子支部1979·5·16審判)。


このような中で、2000年5月に児童虐待防止法が成立しました。


この法律は、児童虐待の定義を定め、すべての人に子どもの虐待を禁止し、国及び地方公共団体に虐待の防止やケアの体制を整える責務も課しました。


また、医師、教師等虐待を発見しやすい立場にあ

る者に早期発見義務を課し、都道府県知事は職員等に立入調査をさせることができるとしたり、しつけと称して虐待がおこなわれないような規定も置きました。


なお、2004年4月には、児童相談所などへの通告義務の対象を「児童虐待を受けたと思われる児童」にも拡大するなどの見直しがあり、2007年には、強制的な立入調査、面会·通信の制限の強化、指導に従わない場合の措置の明確化などの改正(2008年4月施行) がなされました。


あなたの友人の妹さんについては、近くの家庭裁判所児童相談所に相談したらよいでしょう。


児童相談所では一時保護をし (児童福祉法 33条)、都道府県知事を通して家庭裁判所の承認を得たうえで、親権者である父親の意に反して強制的に児童福祉施設に入所させ、虐待をやめない親から子どもを引き離すことができます (同28条)。


親権者からの引取り要求に対して法的に対抗するためには、親権喪失宣告の申立てを家庭裁判所に求めなければなりません。


家庭裁判所が、親権濫用の客観的事実を審理して審判を出すまでに日時を要するため、親権者の職務執行を停止しまた職務代行者を任するように保全処分を申し立てれば、迅速に処理されますし、審判が出るまでの間、子どもは安心して児童福祉施設にいられます。


緊急事態に対処するため、制度的には、アメリカのように親権の一部停止や一時的制限の制度を早急に設けるべきだと思いますが、とりあえず前述のような法的手段に訴えたらよいでしょう。


なお、2011年5月に、2年以内の親権停止制度の導入を認める民法の一部改正が成立しました。


警察に行って強姦罪で刑事責任を追及することも可能でしょうが、実の父親を告発したがらない風潮もあって、なかなか根本的な解決にはいたりません。


児童相談所家庭裁判所に相談して、性暴力をふるう親との生活を断ち、親子のカウンセリングや虐待親の治療をしつつ、子どもの身体の安全を確保することが先決です。


下記の本を参考にしました


『ライフステージと法 』

  副田 隆重 他2名

  有斐閣アルマ