とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

婚姻届の重さ

こんにちは。冨樫純です。


ある質問や疑問に答える形式で、解決の参考になりそうなことを書いていきます。


法律的なものです。


質問の内容は、主に女性目線からものです。


質問


ダンナさんが転勤するからって姉はさっさとOL やめて一緒にっいていったけど、あれだけ仕事がんばってたんだから「単身赴任じゃいや?」って聞いてみればいいのに…。


解答


法律の定める条件を満たして結婚が成立すると、夫婦の間にはさまざまな権利義務が生まれます。


婚姻届1枚の重さは結構あります。


夫の転勤を理由に仕事をやめた女性の話はよく聞きますが、妻の転勤を理由に仕事をやめてついていった男性の話はほとんど聞いたことがありません。


妻の転勤はむしろ妻が仕事をやめる理由になってしまうのです。 なぜでしょう?


戦前は、住居は夫が決め、妻には夫と同居する義務がありました。


しかし現在では、両性は平等です。


2人の協議によって同居の場所は決定されます。


同居義務(民法752条)はお互いが負っているものです。


2人が仕事や勉強を続けるために、夫婦が協議して別居することは、夫婦としての同居義務に違反するものではありません。


むしろ、「妻は夫に当然ついてくるもの」 という偏見に立って、夫婦の事情を配慮せずに男性に転勤を強要する企業に対して、結婚の本質的要素である夫婦同居の権利を尊重させる必要があります。


夫婦は、お互いに協力し扶助する義務を負います (民法 752条)。


協力義務をどう果たすかは、 夫婦によって千差万別です。


夫婦の扶助義務とは、扶養義務のことで、自分の生活が苦しくても相手方に自分と同一程度の生活を保障する義務(生活保持義務) です。


未成熟の子どもに対して親が負うのも生活保持義務です。


生活保持義務は、その他の親族を、自分の生活に

余裕があった場合に援助する生活扶助義務より重い義務です。


配偶者が同居、協力、扶助義務を正当な理由がないのに果たさないときは、「悪意の遺棄」を理由に裁判離婚を求めることができます(民法770条1項2号)。


しかし、義務を果たさない配偶者に同居や協力を強制することはできません。 法的に強制できるのは金銭的な要求だけになります (婚姻費用分担請求権。 民法 760条)。


また、夫婦はお互いに性的純潔を保つ義務を負います。


配偶者が貞操義務に違反した場合は、裁判離婚を求めることができます (民法770条1項1号)。


戦前の貞操義務は夫婦不平等でした。


妻の婚姻外の性的交渉は「家」の血統を乱す重大事でしたが、夫の場合は「家」の血統を繁栄させるための当然のことがらだったのです。


戦後、法的には夫婦の貞操義務は平等になりました。


しかし、性のダブルスタンダード (性的なことが

らに関する男女別基準の道徳規範)は根強く残っています。


また、夫に経済的に依存している妻が夫に対して実際に責任追及できるかは別問題です。


未成年者が結婚したときは、これによって成年に達したものとみなされます (民法753 条)。


これを成年擬制といいます。


未成年者はふつう親権者の保護を受けています。


しかし、結婚した場合は、結婚生活の独立性が保障されなければなりませんから(憲法 24条)、成年者として扱われます。


商取引などの財産行為を独立してすることができますし、親権に服さなくてもよくなります。


自分の子どもに対して親権を行えます。


ただし、成年擬制民法上のことだけで、選挙権などは得られません。

 

結婚後の財産上の権利義務について、結婚前に夫婦財産契約を結んであらかじめ定めておくことができます (民法755条)。


しかし、あまり使いやすい制度ではないので、ほとんどの夫婦は財産契約を結びません。


そこで、民法の定める財産制が適用されます。


個人主義の原則から、夫婦別産制を採用しています。


夫婦の一方が結婚前からもっていた財産や、結婚中に自分の名義で得た財産は、その人個人の財産です(民法 762条1項)。


結婚中に夫が親から相続した財産だけでなく、夫の給料も夫の財産です。


「夫の稼ぎの半分は自分のもの」と思っている女性が多いかもしれませんが、そうではありません。


財産は、夫婦がそれぞれ働いて獲得し、各自で管理するのです。


だから、あなたの稼ぎはあなたのものです。


夫が破産したとしても、あなたの財産が脅かされることはないのです。


ただし、どちらの財産かはっきりしないものは、夫婦の共有と推定されます(民法762条2項)。


共同生活のために買った家具や電気製品などは共有と推定されます。


外で稼ぐ夫と専業主婦という性別役割分業をしている夫婦の場合には、夫が自分1人の名義で財産を得ているしても、妻の内助の功のおかげということも多いのですが、そうした妻の働きは、 離婚の際の財産分与や、夫が死亡した場合の配偶者相続権によって評価されることになります 。


財産分与をきちんとするのはとてもむずかしいの

です。


自分の稼ぎは自分の名義にしておくこと、そして何より稼ぎ手としての責任も夫と分担していくことです。


夫婦の共同生活を支える経済的負担は、夫婦の資産、収入その他いっさいの事情を考慮して、2人で分担することになります (民法760条)。


夫婦関係が破綻して別居したとしても、離婚するまでは分担しなければなりません。


結婚によって夫婦の一方と他方の血族の間に姻族関係が生じます。


3親等内の姻族は、6親等内の血族、配偶者とともに親族となります (民法 725条)。


民法は、「同居の親族は、互に扶け合わなければならない」としています (同 730条)。


これは、法律的には無意味な規定で、たんに倫理

的な意味しかないといわれています。


そもそも、配偶者の血族 (たとえば、親)と同居しなければならない義務はどこにもないのです。


この規定は、「嫁は姑、舅を大切にしなければならない」という 「家」制度の考えかたのなごりといえます。


また、特別の事情があるときは、3親等内の親族に扶養義務が負わせられるという規定もあります (同877 条2項)。


扶養義務の範囲が広いのは、「福祉は家族で」 という日本型福祉の考えかたと通じるものです。


下記の本を参考にしました


『ライフステージと法 』

  副田 隆重 他2名

  有斐閣アルマ