とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

財産分与とは

こんにちは。冨樫純です。


ある質問や疑問に答える形式で、解決の参考になりそうなことを書いていきます。


法律的なものです。


質問の内容は、主に女性目線からものです。


質問


姉は共稼ぎで結婚して10年間になりますが、夫との関係がギクシャクして離婚することに決めました。


しかし、土地建物にはローンが残っているし、わずかな預金とゴルフ会員権くらいしか財産はないとのこと。


それもすべて夫の単独名義。


離婚のときに、夫名義の財産を分けてもらえるのですか。


解答


離婚によって夫婦は他人に戻り、それぞれが別々の道を歩むことになりますが、経済力や所得能力の少ない配偶者は、経済的には厳しい状況に追い込まれる可能性もあります。


また、専業主婦として家事や育児を担当してきた妻は、民法の別産制(自分で稼いだ財産のみが自分の個人財産となる建前)のもとで、内助の功がなかなか金銭的に評価されません。


そこで、民法は、夫婦がそれまで協力して築きあげてきた実質的な夫婦共同財産を公平に清算し、生活に困る配偶者の生計を援助するために、1947年から「離婚の際の財産分与」 という制度をおきました(民法768条)。


離婚の際の財産分与に、離婚に伴う慰謝料が含ま

れるかでは若干争いもありました。


とくに、離婚慰謝料というものが、離婚そのものによる不利益を償うお金なのか、離婚の原因となる不貞行為·暴力などの賠償なのか、はっきりしない部分があるからです。


しかし、現在では、性質上、慰謝料は不法行為の損害賠償として財産分与とは区別されていますが、便宜的に財産分与にこれを含めて同時に解決することは許されるとしています(最高裁1971·7. 23判決)。


(離婚によって渡される金銭や財産を「離婚給付」

と呼ぶこともあります。


離婚によって、名義のいかんを問わず、夫婦の経済関係は総決算を迫られ、夫婦それぞれにとって、新しい出発のための経済的基礎が確立されなければなりません。


その意味で、財産分与制度は離婚する夫婦にとって非常に重要な制度といえます。


1998年に全国の家庭裁判所で成立した離婚に伴う財産分与·慰謝料の平均額は380万円で、2010年は400万円以下が51.9%を占めており、1000万円以上は10%もいませんでした。 (『司法統計年報3家事編 平成22年』 46頁)。


結婚年数が上がれば分与額も上がってくる傾向にあります。


1年~5年未満  200万円

5年~10年未満  304万円

10年~15年未満  438 万円

15年~20年未満   535 万円

20年以上     699 万円    (平均)


あなたのお姉さんの場合も、10年の結婚期間ですから、家庭裁判所での平均ですと400万円くらいといえます。


しかし、最終的には、夫婦の個別的事情をいろいろ考えて、具体的な金額が算出されることになります。


財産分与の中心は、夫婦の協力で維持形成された実質的な共同財産を、名義にとらわれずに公平に清算することにあります。


したがって、対象となる財産は、結婚中に夫婦の「協力によって得た財産」(民法768条3項) ということで、結婚前からの財産、結婚中でも相続や贈与によって得た財産は清算のための個人財産(特有財産) として除外されることになります。


具体的には、夫婦の住まいとして購入された土地·建物、自動車、株式、有価証券、預貯金などが問題になってきます。


土地·建物については、全額支払済みであれば、その評価額に財産形成へ寄与した割合をかけて金額を出しますが、ローンが残っているケースでは、土地·建物の時価からローンの残っている債務の額を差し引いて、寄与貢献の割合をかけるのが普通のやりかたです。


たとえば、土地·建物の時価評価額が5000万円で、残っている債務が2000万円あるとすれば、この土地·建物の価値は3000 万円となり、あなたのお姉さんの共稼ぎによる収入や頭金の支払への協力、家事育児の分を考慮して寄与割合を50%とみると、1500万円を分与してもらえることになるでしょう。


自動車、株式、預貯金、ゴルフ会員権など夫名義でも実質的な夫婦共同財産であれば、同様に分割の対象となります (東京地裁1992·8.26 判決)。


あなたのお姉さんの場合、ゴルフ会員権や預金が2人の協力で形成された実質共同財産ならば、やはり半分を分けてもらうことになるでしょう。


高齢社会では、退職金や年金も財産分与の対象として考えられなければなりません。


すでに支払われた退職金は、財産形成の寄与割合をかけて分割されますが、将来、確実に取得する退職金や年金についても計算方法を工夫して公平な分配がかけかられるべきでしょう(横浜地裁1997·1· 22判決, 横浜家裁2001 12- 26 審判参照)。


2004年の年金制度の改正により、2007年4月以降に離婚すると、合意や調停により年金の分割が受けられるようになりました。


実際の年金分割の割合は2分の1が圧倒的です。


清算の基準としては、結婚の期間、当事者の年齢、心身の状況、職業、収入、財産形成への寄与の程度などを考慮しますが、民法改正案が提案するように、寄与割合が明らかでないときは、原則2分の1と考えてよいのではないでしょうか。


なお、2008年4月以降は、厚生年金等について被扶養配偶者(国民年金法上の3号被保険者)は2分の1の割合で年金分割を請求できることになりました。


専業主婦であるとか、乳幼児を抱えた女性は離婚後就職口を得て自活することがむずかしくなります。


また、高齢であったり健康状態の悪い人も、財産をもっていなければ経済的に厳しい状態におかれるでしょう。


そのため、離婚後も、相当な期間、経済力のある一方から他方に生活保障的な意味での経済的援助がなされなければなりません。


最近増えている中高年離婚では、ますます生活保障的財産分与が重要なものとなってきます。


たとえば、実際の裁判例でも、 75歳の妻に対し、相続権も失う代償として、10年分1200万円の扶養的財産分与を命じたケースがあります (東京高裁1988 ·6·7判決。なお、仙台地裁 2001·3·22判決、横浜家裁 2001· 12·26 審判参照)。


下記の本を参考にしました


『ライフステージと法 』

  副田 隆重 他2名

  有斐閣アルマ