とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

どういう生き方を勧めればいい?

こんにちは。冨樫純です。

 

下記の質問に対して、答える形式でのコラムを紹介します。

 

「 親は子どもに、どういう生き方を勧めればいいのでしょうか?」

どこかで聞いたことがあるような内容ですが、改めて言われると説得力があるように感じます。

 

答え

 

素直に勝るものなし

 

論語』に「人之生也直」(人の生くるや直し)と
いう言葉があります。

 

実は、『論語』で人生論そのものを語っているのは、ここだけです。

 

「人の生くるや」って人生のことで、「直し」とは「素直でなきゃ駄目なんだよ」ということです。

 

「素直」というのは一生の財産になります。

 

私がずいぶんお世話になった松下幸之助さんも、一番最後に「遺言を」と頼んだら、「素直」と言ったのですよ。

 

「素直」がなぜ重要なのか?

 

素直な人のほうが受容能力があるからです。

 

私は若いころ、巨人軍をV9に導いた川上哲治監督にいろいろお世話になったことがあります。

 

その川上さんに「名選手の条件って何ですかね?」と聞いたことがあるのです。

 

どういう答えが返ってきたと思います?

 

それは「基本がちゃんとできていること」という返事だったのです。

 

そこで、「基本って何ですか?」と聞いたら、「正しく投げて、正しく捕って、正しく打つというこ
とだ」と言うのですよ。

 

「そんな高校野球みたいなことでいいんですか?」と言ったら、「冗談じゃない。ジャイアンツに入ってくるぐらいの選手でも、これができてる選手は稀なんだ」とおっしゃる。

 

じゃあ、王とか長嶋はどうだったんですか?」と
言ったら、「王はここが足らない、長嶋はここが足らない」と挙げていく。

 

王や長嶋ですらそうですからね、つまり、完壁な人なんていない。

 

だとしたら、誰であっても、まずは基本がちゃん
とできていなくてはいけない、ということになります。

 

だから、当時2軍は多摩川グラウンドで練習していたのですが、「多摩川グラウンドへ送って、正しい投げ方などをちゃんと教えるんだ」と言っていました。

 

ビジネスでも同じですよね。

 

基本をなおざりにしたまま、中途半端にベテランになってしまうと、やっぱり伸びない。

 

川上さんは「基本があれば、選手寿命を長くすることができる」と言っていたのですが、なるほど! と思いました。

 

ビジネスの世界での「基本」とは何でしょうか? まずは、「正しく聞く」こと。

 

それから、「正しく書く」「正しく話す」「正しく読む」ことです。

 

「読む」「聞く」というインプットと、「書く」「話す」というアウトプットに加えて、もう一つ「正しく考える」こと。

 

案外できている人は少ないのです。

 

「正しく考える」とはどういうことか?

 

大事なことなので、詳しく説明しましょう。

 

「正しい」という漢字を見てください。

 

先ほど述べたように、「正しい」という漢字は、「一」に「止」と書きます。

 

「この線で止まれ」ということなのです。

 

「正しい」とは、線に接して足を止めることです。

 

この線を「基準」「規範」といいます。

 

江戸期には「規矩」といっていました。

 

「規」はコンパスのこと、「矩」は物差しのことです。

ちなみに、英語では規範のことを「norm」といいますが、これも大工の「定規」の意味です。

 

私たちがよく「ノーマル」という normal とは、基準に適った言動のことです。

 

江戸期にわが国で確立した規範は、仁(人間性)
義(社会性)、礼(社会性)、智(人間性)から成っています。

 

従って「正しく考える」とは、人間性や社会性に適っているかを考えることなのです。

 

質問に戻りますが、「親として子どもにどういう生き方を勧めたらよいか」と問われれば、「正しく考える」「正しく生きる」、そして、「良い人生というのは、基本が重要なんだ」ということをまず教える必要がある、と答えます。

 

東洋思想はまさに、「根本」や「根源」を重視するものですから、良い人生に非常に役立ちます。

 

そして、基本を学ぶにも「素直」かどうかによって、その学び方や学べるものも大きく変わってきます。

 

もう一つの根本は「命」です。

 

命を守るために何が重要なのかというと、「人之生也直」つまり「素直」であることです。

 

たとえば、「それはよくないぞ、やめたほうがいいんじゃないか」と言われたら、「そうだな」と思ってスッとやめる。

 

人間は習慣の生き物だから、悪い習慣ばかりだっ
たら命も短くなってしまいます。

 

素直な人のほうが、忠告を素直に聞くから、伸びる。

 

もちろん誰の言うことでも聞くという意味ではありません。

 

本気で自分のことを心配し、考えてくれている人の言葉は素直に聞く、ということです。

 

それから、「素直」には、「心の正しさ」も入っています。

 

心が正しいというのは、「この線で止まれ」ということです。

 

だから、踏み外すことがない。

 

さらに、「素直」の中には「穏やかさ」もありますよね。

 

穏やかな人間は人望の厚い人間になる。

 

それだけの要素が「素直」の中にあるということを『論語』はいっているんです。

 

長い答えになりましたが、「どう生きたらよいか?」と尋ねられたら、「素直な人間として正しく生きること」と思います。


下記の本を参考にしました

 

『ぶれない軸をつくる東洋思想の力』
 田口 佳史 他1名
 光文社新書