こんにちは。冨樫純です。
独学で、憲法を学んでいます。
そこから、個人的におもしろいと感じたところを引用し、感想を書きたいと思います。
タイトル
事件を待つ裁判所
裁判所にも、いろいろな限界があります。
まず、目の前に具体的事件 (「法律上の争訟」)がないことには裁判所としてもどうしようもありません。
戦後の早い時期に、最高裁判所が憲法裁判所として抽象的審査権を行使できる 。
つまり、具体的な事件がなくても法律の合憲性の判断をする権限がある)という見解を前提として、有名な訴訟が提起されました。
それは 「警察予備隊違憲訴訟」と呼ばれるもので、当時の野党党首がいきなり最高裁に対して、「警察予備隊が憲法第9条に違反し違憲であることの確認を求める」 という趣旨の訴えを起こしたのです。
原告の言い分によれば、最高裁は地裁・高裁など通常の裁判所の最上級裁判所として、一般の事件を最終的に判断するだけの存在ではないのです。
むしろ最高裁には、ある法律が憲法に違反しているという訴えに対して判断を示すという「憲法裁判所」の役割もあるというわけです。
こうした一人二役を期待された最高裁ですが、にべもなくその期待を裏切ってしまいました。
最高裁にいわせると、我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない」のだそうです。
現代語訳すると、 「この国の裁判所は、権利を侵害されたりして困った人が助けを求めて裁判を起こしているわけでもないのに、正しい憲法解釈を一般論としてやって見せるような権限は残念ながら持ち合わせておりません」ということですね。
単に目の前に憲法9条に違反する(かもしれない) 警察予備隊とか自衛隊とかが存在している、というだけでは、「そうだとしてもオタクの権利がそれでどうかしたんですか?」という突っ込みが入る仕掛けになっているのです。
つまり、本人の権利や法律上の利益が侵された(つまり具体的事件としての性格が存在している)わけでもないのに、「あそこの自衛隊に憲法違反だと言ってやってちょうだい」という訴えを起こしても、裁判所は相手にしてくれないということです。
たしかに、現実に事件が起きているからこそ裁判所が勇気を出して違憲判決だって書けるのでしょうし、また違憲判決にもそれなりに説得力がついてきます。
そもそも裁判所は選挙で選ばれたわけでもない専門的機関にすぎませんから、事件もないのに気楽に国会が作った法律に対して違憲無効判決を下すようだと、下手をすると「裁判官政治」になってしまいます。
したがって、抽象的審査権を否定して事件性の要件を死守した前述の警察予備隊違憲訴訟最高裁判決は、それなりに地に足のついた判決だったというべきでしょう。
感想
「警察予備隊違憲訴訟」をきっかけに「法律上の争訟」の考え方が定着したのかと思いました。
下記の本を参考にしました
『いちばんやさしい 憲法入門』
初宿 正典 他2名
有斐閣アルマ