こんにちは。冨樫純です。
「日常の意思決定におけるセンス・メイキング」についてのコラムを紹介します。
日本の企業な意思決定がスピード感に欠けると言われていますが、その原因がこのプロセスにあるのではないかと思いました。
経営学者のドラッカーは、その代表的著作『マネジメント』の中で、欧米の経営者にとって受け入れがたい日本企業の特質の1つに「組織全体の合意が得られるまで徹底的に議論を重ね、合意が形成されてはじめて意思決定を下す」という点があると指摘した(Drucker, 1974)。
ドラッカーによれば、日本人の意思決定において重要なのは、「答えを出す」ことではなく「問いを定義づける」ことである。
日本人は、そもそも意思決定を下す必要があるのか、それは何について意思決定なのか、という2点を見極めることに重点をおき、このプロセスを通して合意を形成しようとする。
欧米人は問いへの答えこそ意思決定だと考えているが、日本人からみれば、合意形成までのプロセスが意思決定の核心であり、問いへの答えは、問いの定義から自ずと導かれる。
解釈学的な視点から独自の組織論を展開するワイクによれば、ドラッカーが描写した日本流の意思決定とは、実は組織における集合的なセンス・メイキング (sense-making)のプロセスにほかならない(Weick, 1979, 1995)。
センス・メイキングとは、事象に対して「回顧的に」意味を付与することによって秩序を作り出そうとする努力の結果であり、単なる解釈(文脈に埋め込まれた意味を受動的に取り出す作業)を超えた、より能動的なプロセスである。
ドラッカーのいう欧米流の意思決定(ディシジョン・メイキング)が「実際の選択に迫られて一定の条件下でいくつかの行動案の中から1つを選ぶ問題」であるのに対し、センス・メイキングは、「(すでに得られた)結果に正当な歴史をあてはめる問題」として理解できる。
ただし、ワイクはこれを日本固有の特質とは考えていない。
ワイクが依拠するガーフィンケルの議論の中でも、日常的な意思決定の場面ではしばしば「決定より前に結果がある」という指摘がなされている
(Garfinkel, 1967)。
ガーフィンケルは陪審員たちの意思決定場面を観察し、彼らが当該の犯罪に関する種々の情報を順序立てて検討したうえで意思決定を行っているとはいえないことを見いだした。
陪審員たちは実際のところ、正しい決定(量刑など)を導く諸条件(被告の犯意の有無など)についてあらかじめ理解していたわけではなく、決定を下してはじめてその決定を正当化する諸条件を理解し、それらを回顧的に「事実」として認定したにすぎなかったという。
ガーフィンケルを祖とし、ワイクによって精緻化されたセンス・メイキングの概念は、共同体に生きる人々が文化的実践を通じて社会的リアリティを構築していくプロセスを描き出す1つの理論モデルだといえる。
下記の本を参考にしました
『社会心理学』
池田 謙一 他2名