とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

本当の父親とは

こんにちは。冨樫純です。


ある質問や疑問に答える形式で、解決の参考になりそうなことを書いていきます。


法律的なものです。


質問の内容は、主に女性目線からものです。


質問


別居中の両親が離婚して、私は母親と暮らすことになりましたが、母親から「あなたの本当の父親はほかにいる」と知らされて、とてもショック。


血縁上の父と戸籍上の父のどちらが本当の父親なの?


解答


通常、親や子といえば血のつながった親子のことを考えるでしょう。


もちろん、自然的血縁による親子が法律上も基本となっていますが、世の中には、社会的·心理的に親子であっても、生物学的な親子関係がない場合がありえます。


法律 (民法) では、自然的血縁で結ばれた実親子関係と、自然的血縁は欠けていても法律上は親子関係を擬制する養親子関係の2種類があります。


そして、 さらに血縁による実の子にも父母の結婚の有無により、嫡出子、嫡出でない子という区別をおき、養子にも、当事者の合意によって形成される普通養子、家庭裁判所の審判によって創設される特別養子の区別があります。


このように、法律上の親子関係は、自然的血縁の存在やその擬制のうえに形成され、普通は、当事者の親子になろうという意思と愛育の事実、親子にふさわしい社会関係や生活関係が存在していることが多いでしょう。


しかし、最近では、医学や生命科学の目ざましい進歩によって、人工授精、体外受精、受精卵の冷凍保存、第三者卵子提供、代理出産(最高裁2007 · 3· 23 決定)、死後懐胎子(最高裁 2006 ・9・4判決)など人工生殖による親子が登場し、「だれとだれとの間に法律上の親子関係が成立しているのか」「親子とはいったい何か」といら根本的な疑問を提起しています。


実の親からの監護委託契約にもとづく私的里親、児童福祉法にもとづき委託された公的里親なども広い意味での社会的親子でしょうが、法律上は正式の親子関係と認められてはいません。


結婚相手の親や連れ子との関係は、いわゆる義理の親子(直系姻族1親等) にあたります。


このように世の中には、実にさまざまな親子の形があります。


民法でとくに規定はありませんが、結婚している父母によって生まれた子のことを嫡出子、婚内子と呼びます。


これに対して結婚していない父母から生まれた子は、嫡出でない子、非嫡出子、婚外子と呼ばれ、父との関係も認知によって成立することになります。


結婚している夫婦の間では性のモラルが守られ、妻が夫以外の男性と関係を結ぶことは異例のできごとと考えられていました。


そこで民法は、結婚道徳や医学的統計にもとづいて、妻が結婚中に妊娠した子どもは夫の子どもであると推定しました。


結婚の成立から200日後、結婚の解消または取消しから300日以内に妻の産んだ子は、結婚中に妊娠したものとみなされます (同772条)。


このような嫡出子の場合の父性推定のことを、嫡出推定というのです。


最近ではこの規定の形式的適用により、前夫の子でないことが明らかであるのに前夫の子として届出をしなければならず、子どもが無戸籍となっているいわゆる「300日問題」が話題になっています。


父子関係を否定するには 生まれた子どもが嫡出推定を受けると、その子については、原則として夫のみが嫡出否認という訴えの方法で、親子関係を否定することができるとされています (民法774条)。


夫であっても「子の出生を知ったときから 1年」を経過するともはや親子関係を争えず (同777条)、子どもの嫡出性を承認した場合(同 776条) にも親子関係が確定して、真実でない親子関係を否認できなくなります。


このような、強力な推定規定をおいたのは、夫婦関係のプライバシーが第三者によってかき回されたりすることなく(家庭の平和)、子どもに早期に安定した父子関係を与えたい(子どもの利益) とい

う理由からです。

 

夫が海外勤務や服役するなどして長らく不在であったとか、蒸発して行方不明だったとか、事実上の離婚状態だったなどの理由で、妊娠可能な時期に正常な夫婦関係がないという客観的状況にあった場合、この強力な嫡商出推定の規定は適用されません (最高裁1969·5.29 判決)。


これを「推定の及ばない子」と呼んでいます。


妻が産んだ子どもが、夫の子でないというのは異常なことで、事実上の離婚や長期不在など外からみて明らかな場合に限るべきだという考えかたが強くあります (最高裁 2000 -3·14判決)。


他方、親子における血縁主義を徹底させて、生殖不能、血液型の不一致、人種が違うなど科学的実質的に血縁がないと証明できる場合には、推定を及ぼさないという立場もあります。


現在は、家庭の平和が崩壊していて、しかも子どもの利益にも反しなければ、子どもが生まれて1年以上経過しても、真実の親子関係を明らかにできるという考えかたや再婚するなど新しい家庭が形成されているときには真実の父子関係を明らかにできるとの立場もあります。


あなたの場合も、お父さんの子としての推定が排除される事情があって「推定の及ばない子」に該当すれば、いつでも親子関係不存在確認の訴えによって、戸籍上の父子関係を争うことができます。


たとえば、戸籍上の父子関係であっても親子関係が存在しないことが血液型の不一致など科学的証拠により客観的かつ明白に証明されて、かつ子どもの母と戸籍上の父が離婚して家庭が崩壊しているような事情がある場合には、「推定の及ばない子」ですから、親子関係不存在確認の訴えでよいとしたケースがあります (東京高裁1994· 3· 28 判決)。


下記の本を参考にしました


『ライフステージと法 』

  副田 隆重 他2名

  有斐閣アルマ