とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

感情労働とは

こんにちは。冨樫純です。

 


独学で、社会学を学んでいます。

 


そこから、個人的に関心のある話題を取り上げて、紹介したいと思います。

 


感想も書きたいと思います。

 


話題 感情労働とは

 


看護職は、実際にはバーンアウト(燃え尽き)による離職率が高い職業でもあります。

 


その背景には、看護教育を受け専門的知識や技能を習得しながらもそれを発揮できない状況にあ

る看護師が多いことがあります。

 


看護師の仕事はあくまで医師の指示のもとで行われると同時に、病を得て不安を抱えた患者に直接的に対面するからでもあります。

 


だから、先生と患者の間に挟まれて、看護師には向かないのでは、という無力感に苛まれていたのです。

 


看護師が専門技能を発揮できない背景には、看護労働の背景にあるジェンダー構造の問題点も見え隠れします。

 


ここでいう看護労働におけるジェンダー構造の問題点とは、看護職が伝統的に女性によって担われてきた歴史的経緯から、従属的・周辺的な位置づけを与えられ、また「ナイチンゲール誓詞」にみられるように、専門性に加えて「愛」や「献身」といった伝統的に女性の特性と考えられてきた非専門性を要求される過酷な「感情労働」となってきたことです。

 


この「感情労働」とは、「職務内容の一つとして明示的あるいは暗示的に適切および不適切な感情と、その表出が規定されている職業において、規範的になされる感情管理であり、それは労働生産物それ自体が感情管理によって成立するような直接的で対人的 (face-to-face)なサービス業務(接客、医療、看護、教育など)に顕著にあらわれている」(岡原正幸「感情自然主義の加速と変質」岡原正幸・山田昌弘・安川一・石川准『感情の社会学世界思想社、106ページ)とされます。

 


すなわち、感情労働とは、自分の感情に対する

意味付与を私的な場面から切り離して、利潤をあげるという市場原理にもとづく感情規則に従って自己の自然な感情を加工し、管理するというものです。

 


たとえば週に何人も患者の死を経験する看護師は、

死というもっとも感情を揺さぶられる体験に対して、職務上、強いられた「究極の感情管理」 (武井麻子「感情と看護」医学書院)をする術を身につけていきます。

 


また、癌の告知ができない患者の前でも「患者に嘘をついている」という罪悪感を隠して平常通り看護行為をしなければなりません。

 


医師は事実を伝えるだけで、患者の不安や悲嘆、場合によっては怒りを受け止めるのは、主に看護師の仕事だからです。

 


さらに阪神・淡路大震災―そして、おそらく東日本大震災の際に救援活動にあたった看護師は、夥しい死体を目前にして、アメリカの精神科医R・J・リフトン(『現代、死にふれて生きる」有信堂高文社)のいう「生存者の罪悪感」―自分が生き残って申し訳ないという感情に囚われながらも、それを隠して救助活動を行っていたことでしょう。

 


この感情労働の基礎にあるのが「感情規則」に従った「感情管理」です。

 


「感情」というと、つい「自然なもの」「心理的なもの」と考えがちですが、感情社会学(岡原・山田・安川・石川、前掲書)の立場に立てば、「社会的なもの」です。

 


なぜなら、私たちは一定の「感情規則」に従って、その場面にふさわしい感情を体験しようとしたり、場合によっては感情を装う演技をしなければならないことが多いからです。

 


葬儀に行ったら「悲しまなければならない」し、彼氏からサプライズな贈り物をされたら「喜ばなければならない」―私たちはこうした感情規則に従って社会的に適切な感情を管理したり、演技しているのです。

 


こうした演技には、感情労働という言葉を提唱したA・R・ホックシールド(『管理される心』世界思想社)によると、「表層演技」と「深層演技」があるといいます。

 


すなわち、私たちは誰でも、多少とも演技をしている。しかし演技の仕方は2通りあるようだ。

 


自分の外見を変えうとするのが第一の方法である。.… (中略)…これは表層演技 (surface acting)である。もう一つの方法は、深層演技 (deep acting)である。

 


この場合の表現は感情の働きの自然な結果である。行為者は、幸せそうあるいは悲しそうに〈見えるよう〉に努力するのではなく、…(中略)…自己誘発した感情を自発的に表現するのである。

ホックシールド、前掲書、39一40ページ。

 


「表層演技」はあくまで表情や仕草のレベルの演技ですみますが、「深層演技」になると心のレベルで演技するので、自分が演技しているのかしていないのかもわからなくなります。

 


感想

 


感情労働という概念はおもしろい概念だと思いました。

 


また、気配り労働とも言い換えることができそうなこの労働は、大変で重要だとも思いました。

 


下記の本を参考にしました

 


『ライフイベントの社会学

   片瀬 一男著

 世界思想社