こんにちは。冨樫純です。
独学で、社会学を学んでいます。
そこから、個人的に関心のある話題を取り上げて、紹介したいと思います。
感想も書きたいと思います。
話題
面接で何がわかる?―ふるいわけをする面接
三田紀房・関達也『銀のアンカー』(集英社)の主人公で四谷学院大学三年の田中雄一郎君は、優柔不断な性格が災いして、なかなか就職志望の業種が絞れず、焦り気味。
同級生の北沢千夏さんは、東京のキー局のアナウンサーをめざしますが、最終選考で落ちてしまいます。
二人は偶然知り合ったカリスマ・ヘッドハンター白川義彦のアドバイスを受けたり、蒲田経済大学の松本貴弘君らと就職情報の交換会を開くなどして、就職活動に励みます。
田中君の願いもまた、給与ではなく精神的に充実した「やりがいのある仕事」そして「温かみのある職場環境」です。
だから、「お金のためだけに心と体をすり減らす人生はいやだ」と考えていますが (三田紀房・関達也『銀のアンカー◎』集英社)。
この田中君に白川義彦は逆に「迷ったら金で選べ」とアドバイスします。
ただし、金といっても初任給ではありません。
生涯賃金です。実際、白川が提示した資料によれば、生涯賃金は業界によってバラツキがあり、最大5億円の差があるというのです。
こうしたことから、田中君はなぜそんなことが起こるのか、と経済の仕組みに目を向け始めます。
そして、放送や石油・石炭、海運業界など競争の少ない寡占市場ほど利潤率が高くなるので、生涯賃金も高くなることに気づきます。
こうして優柔不断な田中君、日々成長しながら、面接に臨みます。
でも、10分や15分の面接で企業はいったい学生のどこをみているのでしょうか。
本当に面接で企業は学生の性格や適性を見抜けているの?
実際は学校のブランドや成績で選んでいるのでは? など、何かと疑惑の多い就職面接。
こうしたことは、なかなか学生向けの『就職ジャーナル』には出てきませんから、ここは企業の管理職の本音満載の『PRESIDENT』(2004年5月17日号)をみてみましょう。
ここに企業の人事・採用担当者の覆面対談という企画が載っています。
その見出しは何と「入社選抜は絶対無理だ/23歳くらいで将来社長になれるか見抜けるわけがない」。「社長になる?」……学生はそんなこと考えていませんが、採用担当者の最大の関心はこれです。
「一番になった経験があるやつは勝つためのセルフマネジメント能力が磨かれている」。
成績それ自体は評価されずに、自己管理能力が評価されているのです。「出身高校もチェックする。進学校、伝統校なら、「地頭」がいいと評価も高くなる」――出身大学だけじゃないんだ。でも「地頭」って何だぁ?(その秘密は後ほど)。
さて、こうした担当者のありがたい(?) ご宣託を社会学的に理論化すると「スクリーニング理論
(ふるいわけ理論)」―教育経済学では「シグナリング理論」にほぼ相当する理論になります。
これは「技術機能理論」―同じく教育経済学では「人的資本論」に相当する理論への批判から始まった理論です。
まず「技術機能理論」によると、近代社会になると産業化が進展し、仕事をするための技能の水準が上昇しますが、このような技能はもっぱら学校で教えられますから、学校教育で産業社会に適合
した優れた技能を獲得した者、つまり「よい学校でよい成績を収めた人」が高い地位につく、と考えられます。
ここでは、学校が学生に近代的職業の遂行に必要な技能を教授すると仮定されています。
これに対して、スクリーニング理論は、学校教育で教えられる知識・技能は実際の職業とは無関係であり、職業に必要な技能は就職後、主として企業の現場訓練(OJT)によって習得されると考えます―これはコリンズの資格社会論も共有する前提です。
しかし、人によって、現場訓練によって技能を習得しやすい人と、しにくい人がいます。
企業は人事採用に際して、両者を区別しなければ
ならないのですが、その際の情報が不足しているのです。実際、10分程度の面接や1枚のエントリーシートの情報で「将来、社長になれる人材」を選抜することは、『PRESIDENT』に登場した人
事担当者がいうように「絶対無理」です。
それは学生にしても同じ。
漫画大好きの大学生可南子さんもまた、漫画雑誌の編集者になれたらとK談社や集A社の面接に臨みますが、いわゆる「圧迫面接」をされて落ち込んだり、連戦連敗の毎日。
「だいたい会社、それがひいては「社会」なんだと思うけど、会社が求めるような能力が、そもそも私たちに備わっていないのよ」という友人の言葉に納得しながら、彼女は面接に必要な能力をあげてみます。
「覇気があって、うだつがあがってて、初対面の人とも明るく打ち解けて。そういうのを面接とい
う限られた時間内でアピールできる、か」(三浦しをん『格闘する者に○」新潮文庫、二三五ページ)。
学生の側からみてもこの不条理な面接、そこで企業は学歴や学業成績を訓練可能性のシグナルとみなし、学生の「ふるいわけ(スクリーニング)」をするのです。
学校で先生のいうことをよく聞いて、ちゃんとレポートを仕上げる学生が成績がよい。
そんな学生は会社でも上司のいうことをよく聞いて、ちゃんと販売実績のノルマを期日までに達成できる人間として訓練することができる。
これが人事担当者の本音です。
ここでは、学校は職業に必要な技能を身につけさせる場ではなく、学生の訓練可能性のシグナルを付与する場とみなされています。
このことは『銀のアンカー』に登場する大手不動産業・松菱地所の人事部長・小野寺辰朗氏も先刻ご存じです。
彼は田中君の友人・松本君に、役員会にあげる採用候補者のリストを作成する際のポイントについて、こういいます。
「リストアップの時点で優秀かどうかはあまり問題ではない。優秀かどうかなどそれは仕事をしてみないとわからないからだ…(中略)…企業としては有名大学でしっかり勉強して成績も良く学生生活も充実していて人柄の良さそうな学生を確保しておけばまず間違いない。
とりあえず毛並みの良さそうなものを集めてあとは現場の第一線で鍛えて一人前にしていけばいいというのが新卒の採用に関しての基本的な考え方だ」(三田紀房・関達也「銀のアンカー◎」集英社)。
感想
学歴だけで判断するのはどうかと思っていましたが、このような理論や人事担当者の本音から、学歴は、やはり大事な一部分を占めていると思いました。
下記の本を参考にしました
『ライフイベントの社会学』
片瀬 一男著