こんにちは。冨樫純です。
独学で、社会学を学んでいます。
そこから、個人的に関心のある話題を取り上げて、紹介したいと思います。
感想も書きたいと思います。
話題
「ナンバーワン」から「オンリーワン」への価値観の変化
2003年に流行したSMAPの「世界に一つだけの花」の歌詞のテーマは、「ナンバーワン」ではなく「オンリーワン」であってほしいというものでした。
現代の若者においては、「ナンバーワン志向」よりも「オンリーワン志向」が強まっています。
現代の若者の価値意識においては、地位達成をめざす階層志向性が弱まる一方で、職業や趣味を通じて「自分探し」をし、自己実現を求める志向が強まっているのです。
土井隆義(「非行少年》の消滅」信山社)が述べるように、70年代のカリスマ的ロックンローラーの矢沢永吉のキャッチフレーズが「成りあがり」だったのに対して、80年代のアイドル的ロック歌手であった尾崎豊のキャッチフレーズは、彼の聖地(渋谷)に建てられた記念碑におけるファンの書き込みからもうかがえるように、「個性化」の時代にふさわしい「自分探し」でした。
そこに土井は、「内閉的個性志向」の萌芽を見出します。
そして、現代のカリスマといってもよいアイドル浜崎あゆみは、「幸せの基準はいつも自分のものさしで決めてきたから」と歌います。
この歌詞からみるかぎり、彼女には自己の内面にしか「幸せ」の「ものさし」はないようです。
ここには土井の言葉を借りると、「内閉的個性志向」が垣間みられます。
また、荒川葉(『夢追い」型進路形成の功罪」東信堂)によれば、若年労働市場が崩壊し始めた90年代後半から、「夢追い」を賛美する歌が増えたといいます。たとえば、上戸彩「夢のチカラ」(2005年)、L'Arc~en~Ciel「MY HEART DRAWS A DREAM」(2007年)、Hey!Say!JUMP「Dreams come true」(2008年)など。
荒川は、こうした歌によって夢を追うことがすばらしいと賛美する社会は、希望する進路に進めず、夢がかなえられないとき、自己嫌悪に陥る「リスク社会」につながると指摘しています。
ところが、2003年から2007年までマンガ雑誌「週刊モーニング」で連載された三田紀房の『ドラゴン桜』(講談社モーニングコミックス)では、主人公の弁護士・桜木健二が、生徒に東大入学をめざさせるために「オンリーワン」ではなく「ナンバーワン」になれとけしかけます。
この物語の舞台は、24億円の借入金を抱え、3年以上も利払いが滞って経営危機に陥った龍山高校。
しかも、少子化の影響で収入源の基盤となる生徒も、定員300名に対して165名しか入学せず、経営者は破産宣告を申請しようと、弁護士の桜木健二を雇います。
彼は、元暴走族で未成年時に窃盗・傷害で保護観察処分を受けていました(要するにヤンキー弁護士です)。
桜木は当初、依頼どおりに学校法人の清算によって名を上げようとしますが、途中で民事再生法による事業継続を考え始めます。
もしこれに成功すれば、弁護士の最高ステータスである虎ノ門に事務所をもてると考えたのです。
そして、そのために、龍山高校を5年後に東大合格者を100人出す超進学校にしようというのです。
まさに「ナンバーワン」志向の弁護士です。
桜木は特別進学クラスの担任も兼ね、このクラスのたった二人の生徒、小料理屋の娘で母親に反感をもつ水野直美と、製薬会社社長の三人兄弟の末子で落ちこぼれの矢島勇介に対して、来春東大に合格させると宣言します。
そして、個性的な塾講師をスカウトして、二人を特訓します。この桜木が生徒二人にこういいます。
「ナンバーワンにならなくていいオンリーワンになれだゆーふざけるな、オンリーワンというのはその分野のエキスパートナンバーワンのことだろうが、(三田紀房「ドラゴン桜6」講談社モーニングコミックス)。
ここには「オンリーワン」から「ナンバーワン」への回帰がみられます。
感想
「オンリーワン」というのは今でも強い価値観だと思います。
また、「オンリーワン」から「ナンバーワン」へまた戻ろうとしているという分析がおもしろかったです。
下記の本を参考にしました
『ライフイベントの社会学』
片瀬 一男著