とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

文化を比較することの難しさ

こんにちは。冨樫純です。

 


「文化を比較することの難しさ」についてのコラムを紹介します。

 


心理に社会や文化が影響することは自明のことですが、それをデータとして比較することは難しいことを学びました。

 


文化神経科学の進展に伴い、脳波や脳機能イメージング等不随意的・潜在的な生理反応の指揮を用いた比較文化の手法が目覚ましい進展を遂げているが、自己報告式の心理尺度を用いて価値観や信念を測定する方法も引き続き重用されている。

 


特に国際的な社会調査などを実施する際には、心

理尺度は不可欠かつ有効な文化比較の道具である。

 


たとえば、アジア約20カ国を対象とした大規模な調査プロジェクト「アジアン・バロメーター」では、伝統的家族観や性役割観、民主主義に対する信念、日常の政治的関心などが測定され、成果を上げている(Chu et al., 2008など)。

 


一方で、心理尺度による文化比較にはいくつかの限界もある。

 


第1に、それぞれの文化において「社会的に望ましい」回答が意図的に選択される可能性が排除できない。

 


たとえば自尊心尺度の場合、優れた自分を積極的にアピールすることを是とする文化と「能ある鷹は爪を隠す」ことが望ましいとされる文化とでは、回答の傾向は少なからず異なってくる。

 


第2に、アメリカ人は尺度の両極(5段階尺度の場合には1や5)に好んで丸をつけ、日本人は中庸(3周辺)を選びやすいことが知られている。

 


こうした回答バイアスの存在ゆえに、たとえ異文化間で同じ数値が得られても、それが同じ傾向の表れといえるか否かの判断は、慎重に行われなければならない。

 


第3に、心理尺度の項目の内容には、それを開発した特定の文化の慣習や暗黙知が反映されており、同じ文章が別の文化では異なる意味をもつこともある。

 


このため、たとえ細心の注意をはらって尺度項目を翻訳しても、完成した各国語の尺度が文化を越えて等価であるとは限らない。

 


こうした問題点に鑑み、心理尺度に拠らない多彩な測定法や実験パラダイムが開発され、用いられている。

 


たとえば山口らは、潜在的連合テストを用いて無意識的なレベルで自尊心をとらえることを試みた(Yamaguchi et al, 2007)。

 


山口らによると、自己報告式の自尊心尺度を用いた場合、日本や中国の大学生の自尊心はアメリカ人より低い値を示すが、潜在的な反応としての IATの結果には文化差はみられず、日本人や中国人もアメリカ人と同程度にポジティブな自己イメージをもっていることが明らかになったという。

 


また、北山らは状況サンプリング(situation sampling)という方法を用いて、日米の大学生に「成功場面で自尊心が高まる状況」と「失敗場面で自尊心が低下する状況」を数多く挙げてもらい、それぞれの状況に表れた文化的特質を分析した。

 


同時に、収集した状況のプールからランダムに選定した状況を別の参加者に呈示し、それぞれの状況が自尊心にどう影響するかを推測してもらった(Kitayama et al, 1997)。

 


その結果、アメリカ人参加者は、失敗状況での

自尊心低下よりも成功状況での自尊心の高まりをより大きく見積もり、日本人参加者の場合はその逆という結果が得られたが、こうした傾向は参加者が自文化で収集された状況に反応している場合により顕著だった。

 


北山らの手法は、文化差の背後に個人の心理的プロセスと社会・集合的プロセスの両者の介在を

想定している点で、興味深いものである。

 


下記の本を参考にしました

 


社会心理学』 

 池田 謙一 他2名

 有斐閣