とがブログ

本の紹介と、ぼくの興味があるテーマについて書きます。

残業命令は絶対か

こんにちは。冨樫純です。


ある質問や疑問に答える形式で、解決の参考になりそうなことを書いていきます。


法律的なものです。


質問の内容は、主に女性目線からものです。


質問


先日、退社時刻まぎわに帰り支度をしていたら、課長から突然残業をするよう命じられました。


その日は楽しみにしていた5年ぶりのクラス会があるし、明日でもできる仕事だったので断ったら、「そんなことで総合職がつとまるか!」 とどなられました。

 

総合職だからといって、いつでも残業命令に従わなければならないのですか。


解答


とんでもない。


総合職だからといって残業命令にいつでも従う義務はありません。


残業命令は絶対ではありません。


労基法は、会社が労働者に対して残業や休日労働を命じるにあたって、業務の内容や残業時間数などの時間外労働の条件を定める労使協定を労働者の過半数代表 (その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数によって選出された労働者代表) と締結して、労働基準監督署に届け出ることを義務づけています (同36条,俗に三六協定といいます)。


したがって、上司の残業命令に従う前にこうした

手続がきちんととられているのか、まず確かめる必要があります。


また、実際に時間外労働を行った場合には25% 増、月60時間を超える場合には50%増 (なお, 労使協定によりこの25%の引き上げ分に代えて有給の代替休暇を与えることが可能)、時間外労働が深夜業に及ぶ場合には50%増、休日労働については35%増の割増賃金を支払うことが必要です (同 37条, 割増賃金令)。


それでは、こうした労使協定が締結されている場合には、労働者は会社の残業命令にいつでも従わなければならないのでしょうか。


そうではありません。


これは、あくまでも法定労働時間(1日8時間,週 40時間)を超えて残業させたり、休日労働をさせても労基法違反とならないための条件にすぎませんから (三六協定の免罰的効力)、使用者が労働者に時間外労働動を命じるためにはそれとは別の

法的根拠が必要です。


それでは、使用者はどのような場合に労働者に残業を命じることができるのでしょうか。


この点については有名なケースがあります。


(日立製作所武蔵工場事件=D最高裁1991· 11·

28 判決)。


最高裁判所は、使用者が労使協定を締結し、かつ就業規則で「業務上の都合により残業を命じることができる」旨の規定を定めているときは、労働者は使用者の命令に従って時間外労働をする義務があるといっています。


しかし、このケースに従うと、通常の会社では、労使協定が締結されているのはむろんのこと、必ずといっていいほど就業規則にこのような残業義務規定が定められていますから、使用者は業務の都合によっていつでも労働者に残業を命じることができることになります。


これでは労働者は、ご主人様の命令に服従する奴隷と大差ありません。


そこで、最近では、使用者に残業命令権があるとしても、権利の濫用は許されないから (民法1条3項)、使用者側に残業を命令ずる業務上の必要性や緊急性がそれほどなく、労働者側に残業を拒否するやむをえない理由がある場合には、残業命令権の濫用としてその命令を無効(従う義務がない)と考えるのが一般的となっています。


したがって、あなたの場合のように5年ぶりのクラス会に出席するという特別の事情があることを知りながら、明日でもできるような仕事を押しつけて残業を命じることは権利の濫用にほかなりません。


そんなわからず屋の上司の命令に従う義務はまったくありません。


下記の本を参考にしました


『ライフステージと法 』

  副田 隆重 他2名

  有斐閣アルマ