こんにちは。冨樫純です。
「文明のない所での思考実験」についてのコラムを紹介します。
政治学的だけではなくて、社会学的、心理学的にもおもしろさそうだと思いました。
私たちの生命力を大いに刺激する設定である。
食糧の確保や雨風をしのぐためのシェルター探し、けがや病気との闘いなど、完全な自給自足の狀況で過酷な自然と格闘しなければならない。
だが、その一方で、法律も規則も何もない、すべて思い通りに行動できる気ままな自由も味わえる。
そのような條件下で、彼、彼女らはどう行動するか。
ヴェルヌの『二年間のバカンス (十五少年漂流記)』 (1888) においては、孤島に流れ著いた少年たちが、二つのグループに分かれて対立する。
さまざまな困難に直面する中で協力して難局にあたり、やがて相互に深い友情で結ばれ、豊かな無人島生活を満喫するまでにいたる。
少年たちはそれぞれの個性を活かして活躍するが、とりわけ、物語の中心人物である少年が卓抜なリーダーシップを発揮し、みんなの連帯感を深めるのに貢獻する。
全く反対の結末を迎えるのがゴールディングの 『姐の王』 (1954) である。
無人島に流れ著いた少年たちは、当初、大人たちのうるさい口出しから逃れられた開放感にひたるが、しだいに野蛮な攻撃欲を抑えられなくなる。
憎しみがエスカレートし、理性的行動を呼びかける一人の少年の努力も空しく、殺人の事態にまで発展する。
無人島のエピソードは、社会制度や文明の存在しない状況下で、人間がどういう行動をとるかを考えるための一種の思考実験のようなものである。
政治学的に見るならば、政府や法律が存在しないという条件下で複数の人間がどのような関係を結ぶのかを推論することは、きわめて重要になってくる。
というのも、この問題を考えることで、逆に、人間にとって、国家(政府)とはどういう意味をもつものなのかがあぶり出されるからである。
国家とは何か。
なぜそのような組織が必要なのか。
なぜ人は国家の発する命令に従うのか。
それとも、国家の存在しない社会は可能であり、私たちは、それをめざすべきなのか。
下記の本を参考にしました
『政治学』補訂版
(NewLiberalArtsSelection)
久米 郁男 他2名
有斐閣