こんにちは。冨樫純です。
下記の質問に対して、答える形式でのコラムを紹介します。
単純作業がどんどんIT化され、人工知能も発展していけば、人間にはクリエイティブな仕事しか残らないように思います。
逆にそういう仕事ができないと、失業してしまうような気さえします。
そういうクリエイティビティ(創造性)はどのように鍛えればいいのでしょうか?
陰陽和するという考え方が面白く感じました。
両極にある2つのことを合わせるとは、考えられない発想でした。
答え
クリエイティビティの原点は、陰陽和している
クリエイティビティは重要ですよね。
先ほども言及しましたが、『論語』の「学而不思則岡 思而不学則殆」(学びて思わざれば則ち闇し、思うて学ばざれば則ち殆し)という言葉が鍵です。
簡単にいうと、「思考力と学習は、表裏一体のものである」ということです。
「どうしてこうなっているんだろう」とか、「なんでこんなふうになっているんだろう?」とか、「どうしたらこうなるのか?」という、思考の原点、課題があれば、みんな考えますよね。
その次に、そこで学ぶ。
課題について考えていれば、やめろと言ったって学びますよね。
難しい問題であればあるほど学びます。
この間、どこかで小学校5年生の子が、ものすごいソフトを開発したという話を聞きました。
その子は自分でゲームをやっていて、「いつもこれだよね。面白くないよな。もうちょっとこういうふうにやったらいいのにな、ああやったらいいのに」と思っていた。
「どうすればできるんだろう」と言ったら、たまたま親父さんがエンジニアで、「ソフトというのはこうやってつくるんだよ」と、易しいソフトの書き方を教えてくれた。
そうしたらすごく面白いと言って、それをマスターして、自分でゲームをつくるようになった。
市販のゲームを買ってきて、ちょっと手直しして、もっと面白くする。
5年生で、そうやって、自分がつくったソフトで遊んでいる子がいるそうです。
「学びて思わざれば」ということですね。
学ぶ、そうすると、「ああ、そうか。そういうものか。でも、これはこうなっているじゃないか。どうしてなんだろう、と思う。
思考力ですね。
このように思考力と学習はキャッチボールの関係で、とんどん相乗効果が出てくる。スパイラルアップになる。
それが重要なのです。
それをちゃんと誘導する、指導するということが一つですよね。
「学びて思わざれば則ち岡し、思うて学ばざれば則ち殆し」には、「好奇心」という要素も入っています。
好奇心がなければ「思う」ということをしませんからね。
好奇心が作動すると、思考に変わって、「どうしてなの? それはどうなっているんだろう?となっていく。
好奇心があるから、思考する。
類推したり推察したりする。
好奇心というのも重要な要素なのです。
特に知的好奇心というのは重要です。
それから、もう一つ、大事なことがあります。「クリエイティビティの原点とは、陰陽和している」ということで、これは老荘思想の考え方です。
中国の春秋~戦国時代にさまざまな学者や学派が現れ、諸子百家と呼ばれていますが、その中の老子や荘子の思想を老荘思想と呼んでいます。
礼や徳を重視する儒家に対して、天地自然の流れのままに生きる「無為自然」を説きました。
この老荘思想では、陰陽が全部和していると考えます。
この世にあるものは全部、「陰と陽」という相対するものから成っていると考えます。
陰と陽とは互いに対立する属性を持っていますから、相補的といってもよいかもしれない。
この陰と陽の2つが調和してはじめて自然の秩序が保たれる。だから、「陰陽和して」いるわけです。
このとき、「陰を取るか、陽を取るか」とやっているうちは、完壁なものはできない。
一見矛盾しているように思えるものでも、「陰陽和す」と考えれば、その両方が大事なのです。
だから、どちらかを捨てて、どちらかを取るの
ではなく、「両方を取る」ことを考えます。
簡単ではありませんよ。
両立しないと思える2つのものを「両方とも取ろう」とするわけですから。
だから考えることが重要なのです。完壁なものは全部、陰陽という相矛盾するものが和しているのだ、ということを知っておいてほしい。
「これとこれは両立できないから、どちらかを選
ぶしかない」とあきらめてはいけないのです。
具体的な例を話しましょうか。
基本的に今の企業の考え方は、「コストダウンとサービスアップのどちらを取りますか」というものです。
それで「コストダウンを取りましょう」となってしまうことが多い。
「どちらを取るか?」という考え方は、円形の図を描いたときに、真ん中から割って「どちらを取るか」というものです。
つまり、半円を取って終わりなのです。
結果としては非常に鮮やかですが、いつも50点の解決法です。100点満点のうち、50点しか取っていない。従って、50点の会社になってしまう。
こんなにみんなで一生懸命働いているのに、業績
は50点しか取れないという恐ろしい結果になってしまう。そういう会社が非常に多い。
大事なことは「どちらか」ではなく、「両方」取ろうと考えることです。この世は「陰陽和して元となす」です。
「元」というのは元気ということ。元気なものはすべて、陰陽和しているのです。
ヤマト運輸という宅配便業者が、この課題に直面したことがあります。
宅配便業者の最大のコストは、配達が1回で済まないこと。不在連絡票を入れて、何度も何度も行くことがけっこうあるそうです。
配達が1回で済むとしたら、どれほどコストダウンになるかというぐらいです。
他方、客の側からいえば、帰宅するといつも不在連絡票が挟み込まれている。
疲れているのに、連絡を入れなくてはいけない。
電話しても通じなかったりして、イライラする。
自分の在宅している時間を聞いて、その間に持ってきてくれればいいじゃないか、そのくらいのサービスをしてくれてもいいじゃないか、と思いますよね。
ということは、「配達が1回で済むということは、コストダウンにもなるし、サービスアップにもなる」と気がついたのです。
よく考えれば、表裏一体の関係になっている。表裏一体の関係になっているものを図に描けば、陰陽図です。
ヤマト運輸はそれから、「どうしたら いいんだ、どうしたらいいんだ」と徹底的に考えていった。
没頭没我、欲も得もないという状態になってはじめて、「それはこうやればいいんだ」となりました。
この場合は、時間指定をすこと、時間指定ができるようになれば、コストダウンもサービスアップにもなる! と。
それで、当時としては画期的なシステムを開発して、在宅時間を伝票に記入してもらって、その時間に配達することができるようになったのです。
今はごくふつうのシステムだと思われるほど普及していますよね。
だから、どちらかを取るんじゃない、両方取って解決するというのが基本です。
下記の本を参考にしました
『ぶれない軸をつくる東洋思想の力』
田口 佳史 他1名
光文社新書